IIJ堂前氏に聞く“震災時におけるMVNOの実力”:

音声通話・SMSはキャリアと全く同等、データ通信はMVNOの状況次第

4月14日から熊本県を中心に相次ぐ一連の地震活動の影響で、携帯キャリア各社は一部エリアに通信障害が発生していることを明らかにしている。その一方、本格的な普及期を迎えたMVNOサービスにどのような影響があるのかは見えにくいのが現状だ。

そこで今回は、震災の影響とその対策など、災害時におけるMVNOサービスの状況について、MVNOサービス「IIJmio」を展開するインターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 シニアエンジニアの堂前清隆氏にお話を伺った。

仮にMVNOのシステムが被災しても、音声通話・SMSは利用可能
――今回の震災で、御社の「IIJmio」サービスにおいてデータ通信量に変化はありましたか。
IIJ MVNO事業部 シニアエンジニア 堂前清隆氏
堂前氏:
詳細な分析はまだこれからのためトラフィック推移のグラフで見た範囲になりますが、震災発生で多少通信量は増加したものの、平常時における変動幅とそれほど変わらない状態に収まっています。通信キャリアとの接続帯域を超えるようなトラフィックではありませんので、結果的には通常通りとなります。

ただし、被災地では基地局の混雑によって通信しにくい状況が生じている場合もあると思います。

――災害時、携帯キャリアの通信が優先され、MVNOの通信が後回しにされないか気がかりなのですが。
堂前氏:
それはないと考えています。携帯キャリアとの契約の中で「携帯キャリアと同等のものを提供する」ことになっていますので、MVNOの通信が差別的な扱いを受けることはありません。
――ということは、基地局が混雑した場合に起きる「つながりにくさ」は、MVNOも携帯キャリアも関係ないのですね。
堂前氏:
厳密に言えば、例えばSIMフリー端末の場合で限られた周波数帯にしか対応していないものはより影響が出るかもしれません。ただし、細かな違いを除けば、MVNOも携帯キャリアもつながりやすさは同条件です。
――仮定の話になりますが、もしMVNOと携帯キャリアのネットワークをつなぐ相互接続点が震災に見舞われ使用不能となった場合、MVNOによる通信は利用できなくなってしまいますか。
堂前氏:
残念ながら、利用できなくなってしまいます。また、相互接続点に注目が集まりがちですが、認証系のシステムも非常に重要です。一例を挙げれば、端末をデータ通信ネットワークにつなげていいかの判断は認証サーバが行っており、ここに障害が起きた場合は認証が通らずネットワークにはつながりません。
――音声通話も使えなくなってしまいますか。
堂前氏:
データ通信と違って音声通話は携帯キャリアの設備を使っていますので、仮にMVNO側のシステムに障害が起きたとしても、携帯キャリア側に障害がなければ通話は可能です。同じ理由で、SMSも利用可能です。
音声通話は携帯キャリア設備のみを経由(赤矢印)するため、MVNO設備の状況に影響を受けない(出典:「IIJmio meeting 7」発表資料「みおふぉんダイアルとiPhoneの話」)
――通話やSMSの際も認証が必要になると思います。MVNOで認証機能を担う認証サーバに障害が起きても、なぜ影響を受けないのですか。
堂前氏:
MVNOの音声通話は、認証を携帯キャリアが持つHLR/HSSなどで行っています。なのでMVNO側の障害による影響はありません。
――HLR/HSSといえば、MVNOへの開放が議論されています。今後実際に開放され、MVNO側が運用した場合、そのシステムが被災すると通話もできない事態は想定されますね。
堂前氏:
開放の方法によって影響は変わってくるため一概には言えません。ただ、開放によって仮にHLR/HSS相当の機能をMVNOが自主運用した場合、そのシステムが被災をすれば当然通話もできなくなります。

HLR/HSSは通信における最も基本的なデータベースですので、これが使えなくなるとネットワークへの接続すらできなくなります。「SIMが使えなくなる」と捉えてもらえれば分かりやすいと思います。

――MVNOサービスの自由度を高めるため開放を求める声も多いですが、できることが増える反面、リスクも大きいというわけですね。
堂前氏:
おっしゃる通りで、HLR/HSSを自主運用する場合はサービスレベルを維持するためにやらなければならないことが非常に増えると思います。ですので1台サーバを置いて終わり、といった話にはならないでしょう。
――通信サービスとは少し離れますが、MVNOで緊急地震速報は受信できるのでしょうか。
堂前氏:
基本は携帯キャリアと同じ動作になります。緊急地震速報はETWSと呼ばれる仕組みで一斉に情報配信されますが、SIMがMVNOかどうかに関係なく、電波が届く範囲の全ての端末に情報が届けられます。ETWSは国際標準規格なので、多くの端末に実装されています。

ただし、ETWSの情報を受信したあとの挙動は端末側に委ねられています。携帯キャリアの端末であれば警報音やポップアップ表示が行われますが、SIMフリー端末の中には「電波は受信するもののETWS情報の表示機能はない」ものも含まれており注意が必要です。

また、NTTドコモの「やさしい日本語対応」のような、ETWSにはない独自仕様にSIMフリー端末が対応することは少ないため、そのような機能への対応は各携帯キャリアの端末でないと難しいでしょう。

――MVNO利用者が安否情報をやり取りする場合は、どうすればよいでしょうか。
堂前氏:
弊社ではNTT東西の「web171」などの利用をお勧めしています。携帯キャリア各社の災害用伝言板に情報を直接登録することはできませんが、web171に登録された情報は携帯キャリア各社の災害用伝言板と連携しており、安否情報の検索も可能になっています。
――その他、注意が必要なことがありましたら教えて下さい。
堂前氏:
特にAndroid端末の場合、音声機能のない「データSIM」や「SMS機能付きSIM」をさしていると画面上に「緊急通報のみ」と表示されるケースがあります。NTTドコモ網によるMVNOでは、緊急通報できるのは音声機能付きSIMに限られます。画面表示と実際の挙動に違いがあるので、注意が必要だと思います。
今年に入り「IIJmio」のモバイルインフラを2拠点化
――「IIJmio」ではどのような震災対策をされていますか。
堂前氏:
携帯キャリアのネットワークと弊社のネットワークを接続する拠点には、パケット交換機や認証・課金等の各種システムが設置されていますが、これら設備は拠点内に加えて、地理的に異なる場所でも冗長化しています。1つの拠点が完全に停止しても他の拠点が肩代わりし、サービスを維持することができます。
――携帯キャリアとの接続拠点は何カ所ありますか。
堂前氏:
昨年までは東京のみだったのですが、サービスの信頼性を向上すべく今年に入って大阪にも設置し、現在は2拠点体制となっています。
――大阪の拠点はバックアップ用の予備という位置づけですか。
堂前氏:
そうではなく、平時から両拠点とも稼働しています。どちらの拠点で通信が処理されるかはその時々で異なりますから、例えば東京でスマホを使っても大阪拠点を経てインターネットにつながる、といったこともあり得ます。

運用スタッフも東京・大阪両方に配置し、平常時から両方の拠点を監視できる体制になっています。

――震災を受けての御社の対応についてお聞かせ下さい。
堂前氏:
全社的な動きとして、弊社は福岡にもバックボーンが引き込まれた拠点があり、九州で専用線接続やデータセンターを利用いただくお客様もいらっしゃいますので、弊社のルールに則り運用チームが非常態勢を取りました。

「IIJmio」のMVNOサービスでは、大規模震災被害に見舞われたのは今回が初めてとなるため、利用者の方々にどのような支援ができるか関係者で検討し減免措置を決定しました。

――減免措置はどういった内容ですか。
堂前氏:
災害救助法が適用された地域の契約者様で、弊社サービスを利用できなかった方の利用料金を減免いたします。事情も個々様々だと思いますので、弊社お問い合わせ窓口に御連絡いただいた上で弾力的に運用させていただきます。
――端末の故障に備える「端末補償オプション」も提供されていますが、今回被災した場合は適用されますか。
堂前氏:
規約で「天災時は保証の対象外」とさせていただいており、申し訳ございませんが現時点では特別な対応はしておりません。今後の被害状況等によっては、さらなる対応も含めて検討していかなければならないと考えています。
――ありがとうございました。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて4月26日に公開された記事となります。
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