【MVNEインタビュー】NTTPCコミュニケーションズ:

ISPのOEM提供ノウハウも活用、製販一体で顧客ニーズつかむ

さまざまな事業者がサービスを提供しているMVNOだが、ここまで事業者が増えた背景には、スムーズな参入や継続的なサービス運営を支援するMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)が大きな役割を果たしていると考えられる。MVNEがMVNOの立ち上げや事業展開をサポートすることで、通信に関するノウハウをもたない事業者もビジネスをはじめやすくなる。

そこで、本コーナーでは不定期連載として、MVNOの裏方を支えるMVNEの役割や主なMVNE事業者の取り組みについて取り上げていく。

今回は、NTTPCコミュニケーションズの営業本部 第三営業部 営業担当 担当部長 中林大樹氏、同担当 石田康貴氏にお話を伺った。

――まずは御社がMVNE事業を取り組みはじめたきっかけをお聞かせください。
NTTPCコミュニケーションズ 中林氏
中林氏:
弊社は今年で創業30周年を迎えるのですが、当初から固定通信ビジネスを手掛けてきました。設立間もない1986年のパソコン通信サービスを皮切りに、1995年には「InfoSphere」ブランドでISP事業にも参入しています。「InfoSphere」は現在法人向けに特化していますが、以前は個人向けにもサービスを提供していました。

ISPサービスについては、我々が直接お客さまに提供するだけでなく、提供とほぼ同時期からはOEM提供も行っています。その中でOEM先の事業者さまから「固定だけでなくモバイルも取り扱いたい」とのニーズが寄せられたこともあり、移動体通信においてMVNOビジネスをサポートする「MVNO環境提供サービス」を約5年ほど前に開始しました。

――MVNO事業を検討されている方の中には、どこまでを自らが手掛ければよいのか分からない場合も少なくないと思います。「MVNO環境提供サービス」では、御社とMVNOのあいだの業務切り分けはどのようになっていますか。
中林氏:
エンドユーザーさまとのやりとりは基本的にMVNOにお願いしています。例えば課金や問い合わせ対応などですね。これに対して、弊社では事業者さまがスムーズにやりとりできるよう支援をさせていただきます。

課金であれば、事業者さまがエンドユーザーさまに請求しやすいかたちで回線毎の利用状況データを提供しています。

問い合わせの一次窓口は事業者さまにお願いしていますが、質問内容について事業者さまが弊社に相談できるよう、専用窓口を用意しています。特に、不具合関係のお問い合わせは24時間365日対応できる体制となっています。ISPのOEM提供でも同様の窓口を以前から設けており、ノウハウを共有しています。

――端末調達に対する支援は行っていますか。
中林氏:
端末ベンダーなどパートナーの方々と提携を行っており、適宜ご紹介しています。どうしても端末販売に当たって、調達部分での手間が伴いますので、事業者さまとパートナーさま間での直接のやりとりも含め、ケースバイケースで対応しています。
――MVNE事業における御社の特長はどのあたりにあるとお考えですか。
NTTPCコミュニケーションズ 石田氏
中林氏:
やはり、パソコン通信やISPなど固定ネットワークサービスを早期に提供し、かつISPについてはOEM提供の実績もあります。そのノウハウを「MVNO環境提供サービス」に生かせる点は特長ではないでしょうか。
石田氏:
弊社では営業スタッフがサービス開発も手掛ける、いわば製販一体のスタイルを取っています。自社で通信制御の仕組みなどを開発・検討していることもあって、営業先で伺った顧客の要望をサービスに落とし込むことが可能な点も挙げられます。
――開発陣が営業も兼務していると、MVNOの声が文字通りダイレクトに届きますね。
石田氏:
はい。最近よくご要望をいただくのは、高速通信可能な容量の制御を1ヶ月単位だけでなく1日単位で行うなど、よりカスタマイズしたプランが作れる仕組みの部分です。

ユニークなものでは、法人向けで高速通信容量をまとまった回線数でシェアするプランを希望されたケースがあり、弊社では数十回線でのパケットシェアが可能なものを提供しています。

――数十回線でのシェアできるプランは、個人向けの需要は考えにくいですが、確かに法人向けでは一定のニーズがありそうです。
石田氏:
そうですね。パケットシェア以外にも、特にIoT向けでは「遅くてもいいからできるだけ安価に」「夜間だけ通信できればいい」など、個人向けとは全く異なるニーズがあります。

逆に法人向けでも、営業マンに持たせるような場合はコンシューマ向けとそれほど違いはありません。強いて言えば、使わせたくない通信を制御するぐらいでしょうか。

――御社の「MVNO環境提供サービス」は具体的にどのような事業者に利用されているのでしょうか。
中林氏:
個別の事業者さま名は公開していません。ただ、当初はISP事業者を中心に導入いただいていましたが、おかげさまでそれ以外の業種からの引き合いも高くなっています。今後はIoTも視野にさらに市場が拡大していくと考えています。
――MVNE事業を行われているお立場から、現在のMVNO市場をどうご覧になりますか。
中林氏:
価格競争、容量増加競争はかなり行き着くところまで来ている印象があります。安さも重要な要素ですが、それだけでは結局のところ体力勝負になってしまいます。ISPがMVNOをラインナップ拡充や固定とのセットで活用していますが、SIM単体ではない「組み合わせの世界」に期待しています。

また、価格や容量での差別化が難しくなっており、付加価値の提供にフェーズが移っているのではないでしょうか。

一例として、高速通信と低速通信の切り替えができる帯域制御機能が挙げられます。弊社では、APIを提供して事業者さまがアプリを開発できる環境を整えているほか、弊社が既に開発しているUI画面を提供することもあります。

――MVNOの場合、快適な速度が出るサービスもあれば、そうでないものもあると思います。であれば、高品質であることも付加価値になりませんか。
中林氏:
品質は目に見えにくいため差別化の訴求が難しいと感じています。価格であれば金額という絶対的な数字で比較も容易ですが、通信品質は様々な要因によって絶えず変化する「水物」なので、高品質をどうアピールすればよいのかが課題です。

また、そもそも通信品質は価値ではなくMVNOにとっての根本的な部分とも言えます。「MVNO環境提供サービス」では、弊社がMNOであるNTTドコモからの帯域を各事業者さまに提供していますが、各事業者さまとはあらかじめある程度の品質水準を定めています。弊社では、今後の需要予測も行いながら品質が維持できるようコントロールしています。

――最後に、今後予定されている取り組みなどありましたらお聞かせください。
中林氏:
現在の「MVNO環境提供サービス」では、エンドユーザーさま対応はMVNO事業者さまにお願いする形をとっています。しかし、MVNO事業に関心を持たれる方々が増えるなかで、顧客対応に関するご相談も増えてきました。

そこで、弊社がカバーする範囲を広げたモデルを検討しています。具体的には、事業者さまは販売にのみ専念し、それ以外の業務はフルスペックで我々が請け負うものです。

このモデルであれば、スモールスタートも可能になるため、より容易にMVNO事業に参入できるようになると考えています。手軽にストックビジネスをはじめていただけるプランとして、積極的に伸ばしていきたいと思います。

――本日はありがとうございました。
本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて8月7日に公開された記事となります。
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