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混迷の末にようやく決着し、また禍根残した「携帯端末向けマルチメディア放送」(1)

 次世代放送「携帯端末向けマルチメディア放送」の事業免許を巡り、総務省の諮問機関である電波監理審議会は、2010年9月ドコモ陣営であるマルチメディア放送(mmbi)を基地局を整備する受託放送事業に選定した。

混迷の末にようやく決着

 国内では2011年7月24日にアナログ方式によるテレビ放送が終了し、地上デジタル放送へ完全移行する。携帯端末向けマルチメディア放送は、その空き周波数帯の一部であるVHF-Highの14.5MHz幅の帯域が割り当てられることとなっている。

 同サービスを巡っては、民放キー局と組んで国産技術を推すドコモ陣営と、クアルコムの技術をベースに海外での実績をアピールしてきたKDDI陣営の全面対決という構図だったが、その決定に至るまでのプロセスは混乱の連続だったと言わざるをえない。

 総務省主導による議論は2007年7月に「『携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会』の開催」からで、会合は14回開催され、報告書にはVHF-Highを全国向け放送、VHF-Lowを地域ブロック放送に割り当てること、免許割り当て後の世帯カバー率を「5年後に9割」を参入条件とすることなどが明記された。

 その後、2009年8月に携帯向けマルチメディア放送の基本方針が総務省から公表されるも、技術方式については一本化の是非が論じられてたきたにも関わらず、統一される訳でもなく放送設備を持つ受託事業者として、ISDB-Tmm方式を採用するマルチメディア放送(mmbi)、MediaFLO方式を採用するメディアフロージャパン企画が参入を表明する。

 混乱に拍車をかけたのが、2010年2月総務省から「無線設備規則の一部を改正する省令案等の電波監理審議会への諮問及び当該省令案その他の携帯端末向けマルチメディア放送の実現に向けた制度整備案に対する意見募集」という報道資料だった。その中で、総務省はそれまで、周波数を割り当てる事業者数を1~2としていたものを「1事業者」と明示したのだ。

 技術方式も決まらず、席は1つと言われれば、2社の戦いが激しさを増すのは至極当然だろう。選定レースは、当初、ワンセグを応用した「ISDB―Tmm」方式を開発して臨んだドコモの有利が伝えられたものの、透明性の高い公開説明会の開催を強く求めるKDDIの猛烈な巻き返しがによって、情勢は一気に視界不良となる。

 7月には原口一博総務相が「米国に配慮し、公正に判断するように」と総務省幹部に指示したこと、更に8月には民主党から官主導の選定方法やオークション方式の導入を提案するなど、混乱に拍車がかかる。その結果、総務省が7月に予定していた決定は延び、8月になっても総務省は案を出すことができず、中立的な立場の電監審に判断を委ねるという異例の展開となった。

 メディアフローが5年間で基地局865局、総額961億円を見積もるのに対し、mmbi側はわずか125局で総額438億円と、半分以下の投資額で済ませようとしている。その違いから両社のサービスを一言で括るとメディアフロージャパンは『エリア重視型の携帯電話』で、mmbiが『安価コスト重視型のテレビ』というイメージだ。

 今回mmbiが選定され、次の焦点になりそうなのが、ドコモ陣営だったソフトバンクと今回敗れたKDDIの対応だ。もともとKDDI陣営だったが2008年にドコモへ鞍替えしたソフトバンクにドコモサイドは、インフラ子会社への資本参加も要請していくとしているが、帯域利用料などの問題もあり一筋縄には行きそうにない。更に混乱が予想されるのがKDDIだ。そもそも今回の決定プロセスについて納得しておらず、融和のハードルは高そうだ。

 当然だが、ドコモが携帯市場の半分を持っているとは言え、仮にドコモだけしか携帯端末向けマルチメディア放送をやらないという事態にでもなれば、それは総務省主導で進めてきた『電波行政の失敗』以外の何物でもなのではないだろうか。