キャリアのビジネスモデルにベンダーから新たな提案

 ここ数年のモバイルキャリアの利益率を見てみると、ドコモとソフトバンクモバイルは20%前後、KDDIは14%前後と極めて高い利益率を上げている。しかしキャリアは今後の収益源確保に苦慮しているという実態がある。 キャリアの収入源で最も大きなものは、サービス利用料金である。このサービス利用料金の一人当たりの売上高(ARUP)が各キャリアとも減少傾向にある。因みにこの10年間の5年刻みのARPUをキャリア別に見てみると下表のようになっている。

表1:キャリア別ARPUの動き
2002年2007年2012年
NTTドコモ8,130円6,360円4,840円
KDDI7,570円6,260円4,430円
SBM7,260円4,650円3,990円

 各社ともこの10年間で40%程度と大きくARPUを下げているのが分かる。(但しここ1~2年は下げ止まりの傾向が見られる)
 ARPUが下がる一方でスマートフォンの普及拡大によりトラフィックが急増傾向にあるのは周知のとおりである。キャリア各社が「収益源確保に苦慮している」という背景には、トラフィックが急増しているにもかかわらずARPUが上がらないということに起因している。なぜそのようなことになっているのか。
 データ通信を主力サービスに据えた「イーモバイル」が2007年にNCCとして市場に参入してから、データ通信サービスの料金体系は大きく変わった。既存キャリアのすべてがデータ通信定額制の料金体系を採用したのだ。それによりデータ通信が主要なトラフィック源となったにもかかわらず、トラフィックの増加がキャリアの収益増加とは直結しなくなってきたのである。
 この状況に追い討ちをかけたのがスマホユーザの拡大とOTTと呼ばれる事業者の登場である。
 スマホのユーザーがOTTの提供するサービスを利用することで大量のパケットトラフィックを吐き出すことになる。スマホユーザーの、ほぼ100%がキャリアの提供する定額制サービスを利用している。
 ユーザーがOTTのアプリケーションを利用することでキャリアのネットワークを利用したとしてもキャリアの売り上げは増えない。この構造が「キャリアが苦慮」する原因なのである。

 そのような状況の中でグローバル無線機器ベンダーであるノキアソリューションズネットワークス(NSN)がモバイルキャリアに対して新たなビジネスモデルとなりうるソリューションを提案している。
 NSNはこう提案する。モバイルキャリアはOTTプロバイダと競合ではなく、協力することによって自社インフラから利益を生み出す方法を考えるべきだと。それにはユーザ向けコンテンツ配信においてキャリア自らが主導権を取る必要があるという。
OTT プレイヤーはエンドユーザにコンテンツを配信するためにモバイルキャリアのネットワークに依存している。しかしそれによってモバイルキャリアの収益が増えているわけではないのは前述のとおりである。
 そこでNSNはモバイルキャリアがコンテンツ配信において優位な立場(収益化)を得るために、「Liquid Broadband」コンセプトの一つである「Liquid Applications(リキッドアプリケーション)」を提案する。

 「Liquid Applications」はコンテンツの配信に基地局を使用するというものである。基地局無線機の隣にコンテンツサーバ(Radio Application Cloud Server:RACS)を設置し、そこから直接的にユーザにコンテンツを送り出すというものだ。これによって基地局に新たな機能が付加される。
 RACSはリアルタイムにネットワークデータを収集するため、ユーザロケーションに最適なコンテンツ、例えばCDショップの前を通りかかったときに、その人の好きなジャンルの最新ビデオクリップ配信する事などが可能になる。従来、クラウド上に置かれていたアプリケーションやサービスが基地局内部から配信されることによってリアルタイム性が増し、ユーザの好みと一致しているかどうかを基地局側で事前に確認してから個々のユーザに最適化されたコンテンツを配信するようなことも可能になる。
 このように「Liquid Applications」を利用することでモバイルキャリアは自社が保有する多数の基地局ネットワークを付加価値の高いコンテンツデリバリネットワーク(CDN)へと変えることができる。その結果OTTプロバイダでは提供できないような高度なコンテンツ配信によって、ビックパイプと化したキャリアから付加価値ネットワーカーへと再び生まれ変わることができる。
 端末利用者のすぐ近くにコンテンツを置くことによって、サービスへのアクセスが高速化することにより、例えば、キャリアはRACSによってOTTプロバイダからコンテンツホスティングを請け負うことが可能となる。これはキャリアの新しいビジネスモデルであり、新たな収益源として期待できる。
 ベンダーが提案する「Liquid Applications」というコンセプトはキャリアの新たなビジネスモデルとなるか、興味のあるところである。