Analyst Column&Report:

PHSの低コストから考える携帯電話の良識

1.コスト競争力の強さが復活の原動力となったウィルコム
今年11月からウィルコムがMNPの仲間いりとなり、携帯電話利用者との間で番号を変えずPHSを利用したり、逆にPHSから携帯への移行が可能となった。

PHSは日本発の技術でありながら、携帯電話との競争に敗れ、長く苦難の歴史を辿ってきた。当時、携帯電話との競合を避けるために、PHS会社はデータ通信サービスの強化や音声定額などで挽回を目指すも、ことごとく携帯電話のキャッチアップにあい、なかなかレッドオーシャンから抜け出すことができなかった。

そして、いつの間にかPHS会社のなかで残っているのはウィルコムだけとなり、それとて窮地に追い込まれており、親会社だったKDDIが見離す中、救済したのがソフトバンクだった。

ソフトバンク傘下に入ったウィルコムは、一定の条件付きながらも他社への電話まで含めた音声定額サービス「誰でも定額」を導入したことが功を奏し、加入者数は再成長基調へと反転した。

「誰でも定額」はオプションサービス(月980円)で、他社ケータイ、家・会社の電話へ、1回あたり10分以内の国内通話が無料となるが、これに月1,450円の新ウィルコム定額プランSを組み合わせることでウィルコム同士24時間通話無料。Eメールはケータイへもパソコンへも、送受信無料で利用できるようになる。

つまり。毎月2,000円あまりで話し放題、メールし放題となる訳で、携帯電話との圧倒的なコスト競争力に改めて驚かされる。

2.携帯電話の『あり方』として正しいのか?
ところで、今回ウィルコムを取り上げた理由だが、それは近い将来の携帯キャリアの姿や、本来あるべき世界のヒントが同社にあると考えるからである。

実は、ウィルコムがこうした低コストでサービスを提供できる理由は、設備投資の減価償却が終わり、最もコスト要因として大きい新規のネットワーク費用を利用者が負担する必要がないためである。意地の悪い人は、進化がない技術と揶揄するが、音声特化を掲げるウィルコムにそうした必要性はない。

ウィルコムはソフトバンク傘下になってから上場廃止したため経営情報はわからないが、このレベルでも十分に黒字となっていることは、幹部のコメントからも推察できる。

これに対して、携帯電話の料金レベルをPHS並に引き下げれば、携帯キャリアの経営が立ち行かなくなることは明らかだ。理由は、先のPHSの事情と全く逆で、ネットワークの進化が常に図られ、そのコスト分を通信料金に上乗せする必要があるからだ。

アナログからデジタル(PDC)方式へ、そして3GからLTEへ、そして今度は4Gへと無線ネットワークの技術は進化し、その都度、全国の通信ネットワークが張り替えられてきた。技術の進化によって、周波数の利用効率が向上したり、通信速度が高速化するなど、それら全てが悪いとは思っていない。

ただ、こうした絶え間ない技術のスピードは、果たして誰のためになっているのかと考えるのである。暴論との指摘を省みず、逆にPHSのようなサイクルで動いているとすれば、同じようなことができるのではないか。単純にそう思うだけなのだ。

この問題は、これまで述べてきているように携帯電話の高い通信コストを、このまま顧客が負担し続けるというのは本当に正しいのかという本質を私たちに突きつけている。更に言えば、総務省の護送船団方式によってとまで言うつもりはないが、マスコミが騒ぐような差別化をモバイルキャリアが本気でやるのであれば、本来ならば、そうしたレベルから考えないと顧客には見えないのではないと思うのである。

見えない通信サービスを提供しているだけに、そこに隠されている事情について、今一度再考する時期なのかも知れない。

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