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キャッシュバック戦争に見るモバイルキャリアの本能

 スマートフォンの需要一巡が、熾烈な販売競争を招いている。新入学や就職シーズンの年度末を前に、各社のキャッシュバック競争はヒートアップする一方だ。

 スマホ失速の背景には端末の進化が一定のレベルとなり、目新しさがなくなったこと。そして、昨年末よりドコモがiPhone取り扱いを本格化し、品揃えで違いでがなくなった結果、端末の値引き合戦が激化した側面がある。

 今年1月にはドコモがiPhoneのMNP(Mobile Number Portability)1台5万円前後だったキャッシュバックは、最近では8万円程度まで引き上げられ、それに他社も追随するという構図が続いている。MNP競争で流出が常態化しているドコモとしては、完全な止血は無理としても、流出ペースをスローダウンさせたいというのが本音だろう。また、KDDIとSBMとしては、顧客流動化が純増拡大の必要条件である以上、端末販売減少はあってはならないシナリオである。

 業界全体では年間1兆円近くにもなるとされるこうした販売手数料が、モバイルキャリア各社の営業利益に一定のマイナス要因として作用することは間違いないが、それでも他の産業と比較すると依然として高収益体質であることに変わりは無い。あくまでモバイルキャリアの戦いの場は新規市場という限定された領域で繰り広げられており、既存顧客向けは不思議なほど無風状態となっているのだ。

 問題は各社が新規顧客の獲得を優先する一方で、既存利用者の通話料などの引き下げについては見送っており、この差が利用者に極端な不平等感をもたらしているのではないかということだ。2007年にモバイルビジネス研究会は端末代金と通信料金を分離する現在の制度へ移行を促したが、程度の問題で言えば、その前の方がまだましだったのではないか。

 そんな事情もあり、役所が現在のキャッシュバック戦争に介入するということは難しいのかも知れない。つまり、最大の商戦期を前にチキンレースを止めるものはいないということになる。

 フィーチャーフォンからスマホになっても、そして3GからLTEになっても、『新規顧客』を追い続けるモバイルキャリアの本能は、今も昔も変わっていない。

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