モバイル業界スナップショット:

過去の新規参入事例から考える「楽天」の携帯参入

第四の携帯電話会社(MNO:Mobile Network Operator)として、楽天の新周波数帯獲得へ向けた動きが注目を集めている。総務省は、1.7GHz帯と3.4GHz帯を新たな周波数帯として割り当てる方針で、申請した事業者は、NTTドコモ、KDDI・沖縄セルラー(au)、ソフトバンクおよび楽天モバイルネットワークの4グループ。


楽天の参入が認可されれば、現在の3社による協調的寡占市場に風穴が開き、競争が活性化するなどの好意的な意見がある一方で、楽天が想定している6000億円程度(2019年末予定のサービス開始時で約2000億円、2025年度までに合計6000億円)の資金では足りず、勝負にならないという見方もある。


そこで、今回は2005年に行われた1.7GHz帯及び2GHz帯の周波数を獲得した新規参入事業者3社(いずれも当時)のケースを検証することで、今回の楽天のケースを考えていただければと思う。なお、最初に申し上げておくが、3社のうち実際に下記の計画に沿って事業を開始したのはイー・モバイルだけで、BBモバイル(ソフトバンク)はボーダフォン買収へ動き、アイピーモバイルは自己破産してしまった。

当時、総務省は1.7GHz帯と2GHz帯の全国バンドを、最大3社の新規参入希望者に割り当てる方針を決め、1.7GHz帯をイー・モバイルとBBモバイルが、2GHz帯をアイピーモバイルがそれぞれ獲得した。BBモバイルは通信機器メーカーに初期投資を負担してもらい、通信会社の目先の支出を抑制する「ベンダーファイナンス」を活用し、また低コスト無線LANを活用することで、投資は手持ち資金(数百億円)の範囲に収め、新たな資金調達はしないとしていた。これに対してイー・モバイルは主要都市から徐々に全国に広げ、約3000億円の設備投資を行い、サービス開始から5年間で500万加入を目指としていた。一方、アイピーモバイルは目標の1160万件のうち、約6割をM2Mで獲得する計画で、データ通信特化の事業展開を目指していた。

その後、2012年10月にソフトバンクによるイー・アクセス買収によって、この時の新規参入事業者で生き残っている会社は1社もない状況にある。当時の携帯電話普及率は7割程度で、それでも既に飽和市場で勝ち目はあるのかと言われた。その意味では、楽天が参入するにあたっては、決して簡単な戦いではないだろう。

しかし、当時と比較すれば、コアネットワークへのNFVなどの仮想化技術、基地局の小型化、低コスト化などのテクノロジーの進化、そしてMVNOやローミングなど制度面での整備も進んでいる。

さまざまな報道を見ると、何を持って成功とするかという意味も関係者それぞれで異なっているようにも見受けられる。健全な市場形成へ向け、楽天がどのような取り組みをしていくのか、注目していきたい。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて3月2日に公開された記事となります。
最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。

メールニュース「Mobile News Letter」
最新コンテンツを週1回配信中

モバイル業界スナップショット