世界の携帯端末市場におけるプレーヤー勢力図の変化

1.潮目の変化

 携帯電話の世界最大の展示会である市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」がスペインのバルセロナで開催されている。

 過去の10年と比較し、今回はノキアやモトローラといった欧米勢が衰退する一方で、韓国サムスンやLG、日本のドコモ、中国のHUWEI、ZTEなど、アジア勢が主役に躍り出るなど、変化の潮目を迎えたような印象を受ける。

 なかでも象徴的な動きの1つとして挙げられるのが、ノキアによるスマートフォン向けのOSのマイクロソフトとの共同開発である。

2.欧米系端末ベンダーの衰退

 ノキアが「Windows Phone」を採用するほか、コンテンツ・アプリケーション販売ストアを統合する。また、ノキア端末に検索サービスとして「Bing」、検索連動広告として「adCenter」を採用し、マイクロソフトと共同のマーケティング施策、開発ロードマップの共有も行うという。両社で共同開発する端末は、2012年の発売を計画している。

 ノキア、エリクソン、モトローラといった欧米系端末ベンダーがスマートフォン向けOSとして、「EPOC(エポック)」をライセンスし普及させることを目指した合同ベンチャー「シンビアン」を設立すると発表したのが、1998年6月。ライバル3社の共通の敵は、PC向けOS市場の覇者であるマイクロソフトだった。

 「インフラメーカーらしい武骨なデザイン」とライバルから評されることの多かったエリクソンは、当時シェア3位ながら端末事業の不振から2001年4月にソニーと合弁会社「ソニー・エリクソン」を立ち上げた。また、2007年まで世界シェア2位だったモトローラのポジションは7位まで落ち込み、2010年末には同じく端末事業の不振から、同事業の分離を発表している。

 いずれも2000年代半ばからの韓国サムスン、LGといった新興端末ベンダーの台頭が流れを変えたきっかけとなったが、決定的だったのは従来のフィーチャーフォンからスマートフォンへと市場トレンドが一気に切り替わったことだった。

 アフリカなど新興市場では、これらのコスト構造では全く太刀打ちできないレベルで中国端末ベンダーの低価格端末が市場を席巻し、高機能端末ではiPhoneやブラックベリー、そしてアンドロイド端末といった新たなプレーヤーに主導権を握られた。

 携帯端末市場の巨人と呼ばれたノキアも事情は同じだ。世界の携帯電話市場においてスマートフォンの割合は既に20%を突破するなか、同社のOS「シンビアン」の市場シェアは今でも40%弱あるとは言え、前年比10%前後のダウンとなっている。ちなみに、携帯電話端末市場全体の同社のシェアは2009年の38%から2010年は33%に落ち込んでいる。
 
 実際、2007年に20%以上あったノキアの携帯電話事業の営業利益率は、最近は10%を割り込んでいるような状況だ。

3.ノキアの葛藤

 こうした凋落に危機感を抱いたノキア首脳部が、2010年9月に再建を託したのがマイクロソフトのビジネス部門を率いていたエロップ氏だ。

 決算発表に際して、それまでのノキアの戦略を抜本的に変える用意のあることをうかがわせ、スマートフォン市場で「チャレンジャー」となる必要があると説いた。スマートフォン部門の能率向上をはかるため、全社の2.8%にあたる1,800人のリストラを行ったり、米ベライゾン・コミュニケーションズからジェリ・デバード氏を新しく設けた最高マーケティング責任者(CMO)のポストに招くなど、矢継ぎ早の改革を進めてきた。

 その一方で、ノキアでスマートフォン戦略を牽引し、次期CEO候補、もしくは「ノキアのスティーブ・ジョブズ」とも言われてきたアンシ・バンヨキ氏が退任するなど、ノキアのスマートフォン戦略が大揺れであることを伺わせていた。

 エロップ氏は、今回のマイクロソフトとの提携について、ノキアの「シンビアン OS」搭載端末とマイクロソフト「Windows Phone 7」採用する携帯端末をあわせた出荷台数は、2010年Q4に約3,000万台と、スマートフォン市場のなかで依然として約30%を占めており、「アップル「iPhone」とAndroid勢、ノキア-マイクロソフトの三頭によるレースになる」と述べている。

 尚、ノキアは、これまで独自OSの「シンビアン」、米インテルと共同開発中のOS「MeeGo(ミーゴー)」があり、2010年秋にシンビアン・ファウンデーションの方針変更を発表し、シンビアンを自社下に編入。これにより、同年2月にインテルと共同発表したMeeGoをハイエンドに、シンビアンはエントリーにという方向を打ち出していた。
 
 市場では、ノキアがフィンランドのエスポーから米国のシリコンバレーへ本社機能の移転を検討しているとか、マイクロソフトによるノキア乗っ取りといった過激なコメントも聞かれるが、それだけトップ企業であっても日々激変する市場の変化に対応できなければ、簡単に転落する危険性があるということではないだろうか。

 ノキアの今後に注目していきたい。