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小型タイプの携帯基地局「スモールセル」に対する携帯各社の取り組み

携帯各社がエリアを充実させるために設置している携帯基地局。現在は「スモールセル」と呼ばれる小型タイプのものが多用されている。そこで今回はスモールセルに対する携帯各社の取り組みを整理したい。

キャリア3社の新局数予測
(出典:MCA「スモールセルをめぐるキャリアおよびベンダ各社の戦略と市場展望」)

スモールセルが多用される背景には、小型というスモールセルの特性がある。具体的には、1つの基地局がカバーできる範囲は大型のものに比べて小さくなるが、その分収容するユーザー数も少なくなり快適な通信が確保しやすくなる点や、小型のため設置コストが抑えられる点が挙げられる。なお、スモールセルと一口に言っても出力には幅があり、特に出力が小さいものはピコセル(出力1~4W)と呼ばれている。

そのピコセルを積極的に採用したのがKDDIだ。同社はLTE導入当時ロケットスタートを図るとアピールしていたが、急速なエリア拡大を支えたのがピコセルだった。

ピコセルであれば大型基地局に比べて早期にLTEエリアを構築できる。主要なランドマークや交通機関、地下鉄や商業ビルなどにもピコセルを積極展開することで、きめ細やかな電波環境作りが可能となる。それが、LTEで先行していたNTTドコモを早期にキャッチアップできた理由だった。現在では、基地局のカバー範囲の境界にピコセルを用いてLTEエリアを補完する一方、急増するトラフィック対策にも活用されている。

一方、KDDIに先行してLTEを開始していたNTTドコモは、1つの基地局で実質6局分の通信容量が確保できる6セクタなどの多セクタ化技術を用い、LTEエリアの拡大よりも都心部などの高トラフィックエリア対策を重点的に推し進めてきた。

しかし、KDDIの急速なLTEエリア拡大に伴い方針転換を迫られることになる。トラフィック対策と同時にエリア拡大も行わなければ、先行していたLTEサービスでKDDIに後れを取ってしまうためだ。当時ある関係者によると「NTTドコモのネットワーク関連部門ではKDDI(au)のLTE展開を把握していたが、大部分を占めていた既存3Gユーザをないがしろにはできず、頭を悩ませていた」という。

ソフトバンクモバイルはスモールセルに注力していないようにみえるが、グループ会社のWireless City Planning(WCP)がAXGPのエリア展開で小型基地局(クラウド基地局)を積極展開している。

最新のスマートフォンではソフトバンクモバイルのLTEサービス以外に、イー・アクセス(イー・モバイル)のLTEサービス、WCPのAXGPサービスを利用し、ソフトバンクグループとして、他キャリアに対抗している印象を受ける。

なお、ソフトバンクモバイルが一切、スモールセルを取り扱っていないかといえば、実際はそうではない。ルーラルエリアのエントランス回線をIP化し、FTTHや衛星回線を利用した小型IP基地局を展開している。しかし、小型IP基地局の無線機はフェムトセル向けのものを採用しているため出力や容量は非常に小さい。

総務省から新たに割り当てられる3.4G~3.6GHz帯に、キャリア各社はLTE-Advanced TDDの導入を計画している。3.4G~3.6GHz帯という高い周波数帯には、従来の大型基地局よりもスモールセルの展開が最適とされ、今後ますますスモールセルが積極的に採用されていくと考えられる。株式会社MCAでは、キャリア3社のスモールセルの新局数は、2013年度見込みで2万局あまりだが、2017年度には3倍以上に増加すると予測している。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて6月26日に公開された記事となります。
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