市街地における5Gハンドオーバー実験に成功:

2020年の5Gスタート目指すKDDI、セコムとのユーステストも開始へ

KDDIは2月22日、5Gに関する説明会を都内で開催した。登壇した同社技術開発本部 シニアディレクター 松永 彰氏はKDDIの5Gへの取り組みや捉え方、実証実験結果等を披露した。

KDDI:実環境に近い市街地でハンドオーバー実験に成功

「5Gは社会の基盤を支える技術になると期待している」と語る松永氏は、5Gの要件として高速・大容量、多接続、低遅延の3つを挙げ、それぞれの要件を実現するための技術課題についても整理を行った。

5Gはいろいろな周波数・世代・方式を効率よく組みあわせ適性に応じて使う必要があるが、高速・大容量を実現するため広帯域を確保するには高周波数帯の利用が不可欠となる。直進性が高いためビームフォーミング技術を用いるが、ハンドオーバーの際はビームをトラッキング(追いかけ)しながら基地局を切り替えなければならず、困難が伴うという。

今回の実験では、KDDI本社のある東京・飯田橋周辺の市街地ならびに首都高速の2ヶ所を自動車で走行し、高周波数帯域候補の1つである28MHz帯でのハンドオーバーを成功させたという。実験に際し、サムスン電子が技術協力を行っている。

松永氏は「高い周波数帯を携帯電話で使うのは初めてだが、KDDIは衛星通信を通じて高い周波数帯のサービス提供を以前から経験しており、そのノウハウを使って安定通信を確保する」点を自社の強みとして挙げた。

実用化に向け今後のユーステストはパートナーとともに行う方針で、同日には高度なセキュリティシステムの実現に向けた実証実験の共同推進でセコムと合意したことも発表された。

セコム:5Gによる監視映像高画質化で顔認識などに期待
(左より)KDDI 技術開発本部 シニアディレクター 松永 彰氏、セコム 企画部 担当部長 寺本 浩之氏

セコムの取り組みは、企画部 担当部長 寺本 浩之氏から説明が行われた。「ココセコム」やホームセキュリティサービスなどでKDDI回線を利用している同社だが、寺本氏は5G実用化による警備の品質向上に期待を寄せていた。

大規模イベントの際には、仮設カメラ、巡回車両に搭載したカメラ、さらに警備員に装着したウエアラブルカメラなど、様々なカメラによる監視が行われている。現状では電波状況が悪化しても問題なく監視できるよう画質に制限をかけているそうだ。5G技術の導入により、高画質画像を活かした人物の顔認識や車両登録番号(ナンバープレート)確認が想定されている。

また、既に同社では、地上だけでなく上空からもドローン、ヘリコプター、衛星、飛行機と様々な手段を用いて空間情報を収集している。ここでも5G技術が活用できるのではないかと考えられている。

発表の最後で寺本氏は「(今回の発表内容は)現在提供しているサービスの延長線上だが、今後KDDIと情報共有しながら、5Gを使った新たなサービスも検討していきたい」と述べた。

説明会における記者との主なやり取り
――「2020年 5Gスタートを目指す」とあるが、具体的なイメージは。
KDDI 松永氏:
エリア、サービス内容、料金は検討している段階。2020年にはオリンピックも控えており、できるだけ魅力的なサービスを提供できるようにしていきたい。一般顧客向けに有料サービスを開始するかどうかも含めて、現在検討中。
――NTT持株会社の鵜浦社長は「5Gの設備共用」を訴えているが、どう考えるか。
KDDI 松永氏:
5G以前もトンネルなどで設備共用はさせていただいている。5Gはネットワーク構成・周波数が決まっていないところがあるので、それを含めて可否を考える必要がある。
――28GHzでのハンドオーバー実験について、今回技術協力したサムスンは既に海外で28GHzでの実験を実施済だ。今回の実験との違いは。
KDDI 松永氏:
ハンドオーバーでは、技術だけでなく、どういう環境で実証実験するかが重要。市街地、一般道路、高速道路といった、実際に近い環境で成功したことが重要と考えている。ラボや実験環境ではない、実際の実証環境で成功したことがポイント。今回は、サムスンが用意したプラットフォームを使って実験を行った。
――実証実験を行うパートナーは何社ぐらいか。
KDDI 松永氏:
いろんな業界の方とお話をさせていただいているので、具体数は差し控える。今は、自動車、鉄道、セキュリティ、教育、イベント、建設・土木の分野を候補として話を進めている。
――NTTドコモはマルチベンダーで実験をしているが、KDDIはどう取り組むのか。
KDDI 松永氏:
5G実証実験の観点ではサムスン、エリクソン、ノキアとMOUを締結している。無線も単独周波数、複数周波数、4Gとの組み合わせ、など様々な課題があり、その課題に応じて、実験の時期やパートナーを決めていきたい。
――ソフトバンクは既存周波数帯で5G要素技術の先行導入をする(「5G Project」)が、KDDIは。
KDDI 松永氏:
Massive MIMOやネットワークスライスなどいろいろ技術がある。5Gを待たずに入れることはやぶさかではないと考えている。検証等の結果で導入の可能性はある。
――低い周波数帯の5G活用をどう考えるか。
KDDI 松永氏:
3.5G帯、4.5G帯など議論があるが、高い周波数と低い周波数、低い周波数は4Gと5Gの両方あるが、それを組み併せて使うのが必要。

低い周波数は新しい無線方式(new radio)とLTEの延長線上にある方式とあるので、どの方式をどのバンドで使い、どう組み合わせるかがキーになってくる。

――5Gはどのあたりのエリアから導入されるのか。
KDDI 松永氏:
低い周波数と高い周波数、4Gと5Gをくみあわせて使うのが我々のやり方だと思う。どこからやっていくのか、どこで使うのかは今後の検討。周波数、世代によって特徴特性適正がちがうので、それを見極めた上で使う。
――700MHzを5Gで、という考え方があるが。
KDDI 松永氏:
既存バンドにどれぐらい使うかは帯域幅の問題がある。高い周波数で広帯域を使う必要があるアプリケーションでは使えない。どこを5Gと呼ぶかによるが、それ以外のアプリケーションでは使うかもしれない。700MHzは既存方式で使うということで免許をいただいているので今後の検討課題。
――今後の実証実験の内容、期間は。
KDDI 松永氏:
5Gが実施に使われる環境に近いところで技術実証をやっていきたいと考えている。いろいろな課題に対して実験をしていきたい。4月に東京・新宿で行うのは、今回同様高周波数での実験となる。
セコム 寺本氏:
KDDIとのユーステストは5月より開始する。

画像を5Gでアップロードし、セコムのセンターにアップする実験から開始する。現状、動画は接続数やセンターでの処理効率を踏まえコマ落ちの状態。5Gでなめらかな動画がとれるのか、多数接続がどれぐらいできるのかなど、現在提供しているサービスの向上を確認していくのが主眼。

その後、ドローンなど上空での情報やり取りの実験も行いたい。実験環境の整備などでKDDIと一緒に検討していきたい。

――セコムのサービスにおける5Gの導入は2020年を目指すのか。
セコム 寺本氏:
KDDIが2020年に5Gのサービスが正式に開始されるかによるが、KDDIのサービス開始後、いのいちばんで導入できるように準備していきたい。