モバイル業界スナップショット:

見えてきた楽天の基地局ネットワーク構成~ネットワークの仮想化がキーに

楽天は第4の携帯電話事業者として新たに認可を受け、2019年10月にサービスを開始することを表明している。このスケジュール感からすると、2018年4月の認可以降は速やかに通信機器ベンダや基地局建設事業者などを選定し、インフラ構築に向けロケットスタートを切るものとみられていた。

しかし4月末といわれていたベンダ選定は5月のゴールデンウイーク明けになるという噂が流れ、それも伸びると5月末までには・・・とズルズルと伸びていた。

そのような中で、5月末にインドの携帯電話事業者、リライアンス・ジオ・インフォコムの元上級副社長であったタレック・アミン(Tareq Amin)氏を楽天モバイルネットワークの最高技術責任者(CTO)に迎えたという情報が入ってきた。アミン氏が就任したことで、それまでのベンダや通建事業者の選定作業は振り出しに戻り、同氏が中心となってベンダ選定が進められた模様。その結果、伝送系はシスコ、CORE系はシスコとエリクソン、ノキアが採用された。注目されたRAN系は、v-RAN(BBU)でアルティオスターが採用され、同じくv-RAN(RRH)はノキアが採用されている。楽天は採用ベンダを正式には公表していないため、上記は当社の周辺取材によるものである。

アルティオスターが採用されたことで、CORE・RANのオール仮想化によるネットワークが構築されるものと思われる。ドコモやソフトバンクもネットワークCOREの一部に仮想化技術を取り入れているが、レガシー系ネットワークとの二重運用になり、仮想化本来のメリットは享受できていないというのが実態である。過去のネットワーク資産が無い楽天は、既存キャリアのようにマイグレーションリスクを考えることなく仮想化のメリットを十全に得ることが可能となる。

総務省に提出した申請計画より設備投資を抑制できる背景は

楽天は2018年度第2四半期決算発表会の席で「免許申請時に総務省に提出した計画よりも設備投資額は少なくなる見込み」と発言している。その背景を探ってみると以下の点が考えられる。

従来のネットワーク構成と仮想化ネットワーク構成をコストの点で対比してみると、まず大きく異なるのが各ユニットの専用アプライアンスが不要になるということがあげられる。専用アプライアンスは高価だが、汎用サーバ(COTSサーバ:Commercial/Commodity Off-The-Shelf)が利用可能となれば高価なハードウェアを準備する必要がない。また各機能は汎用サーバに実装されたソフトウェアで実現されるため、従来機に比べて省スペース化も図られる。楽天の主な基地局ネットワークはC-RAN構成で構築されるものと思われるが、仮想化によりBBUとRRH間に高価なCPRIインターフェースを使う必要がなくなり、安価なイーサネットスイッチで済む点もコストを大幅に削減できる。またイーサネットを利用できることでCPRIインターフェースにあった距離の制限が大幅に緩和されることもサイトロケーションの点から有利に働くと思われる。また従来はCPRIを多重化するためにWDMを設置していたが、その必要がなくなり更なるコスト減が見込める。

ネットワークの仮想化は機器コストの削減もあるが、運用人員の削減、サービスデリバリの柔軟性なども特徴としてあげられる。楽天は参入時の計画においてサービス開始後10年で1000万契約を目標にしている。その規模の加入者を収容するネットワークを仮想化技術によって構築するとすれば、既存キャリアのネットワーク運用陣容とは比べ物にならないほどの少ない人員で済むMNOが登場する可能性がある。

楽天が携帯電話事業参入を表明した当初は、その投資額の少なさから「ネットワークインフラがまともに構築できるのか」という疑問が呈されていたが、仮想化ベンダを採用したことで、ここに一つの可能性を見出したとみることもできる。

楽天はまた同席で「当初計画よりも前倒しで基地局を作っていく」とも発言しているが、このシナリオがスムーズにいくかは別の問題がある。現状、ドコモ・KDDI・ソフトバンクの既存3キャリアは2012年と2014年に割り当てられた700MHz帯・3.5GHz帯のオブリゲーション達成を中心に工事は活況であり、また今後は今年割り当てられた新規周波数帯の基地局構築にも注力していかなければならない。更にオリンピック・パラリンピック等の工事需要もあり工事現場は人手不足が続いている状況である。

機器ベンダはひとまず決まった楽天であるが、実際に基地局構築をマネジメントするエンジニアリング会社のリソースを調達できるかどうかは大きな課題である。当初計画通りにサービス開始を行うには、置局交渉も含むKCSから基地局インテグレーションまで多くの工程があり、残された時間は多くはない。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて8月10日に公開された記事となります。
最新記事や過去の掲載分は「DATAで見るケータイ業界」もあわせてご覧下さい。

メールニュース「Mobile News Letter」
最新コンテンツを週1回配信中

モバイル業界スナップショット