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「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」に関する考察

総務省より「モバイル市場の競争促進に向けた制度整備(案)」が公表されたが、その内容が波紋を呼んでいる。具体的な内容については、これまでさまざまなメディアで報じられているが、主なポイントを整理すると下記の通りとなる。

  • 解約違約金を従来の9500円から1000円へ引き下げ
  • 期間拘束の有無による月額料金の価格差を現在の1500~2700円から170円へ引き下げ
  • 通信契約の継続利用を条件としない端末割引額の上限は2万円まで
  • 通信契約の「継続」を条件とした端末価格の割引禁止
  • 長期利用者向けの割引は、許容される割引の範囲が1カ月分の料金までに制限

かつて公共性の高いサービスとして認可制だった携帯電話の料金制度だが、1995年の電気通信事業法の改正で届出制へ変更された。2004年には携帯会社の判断で決められるようになるなど、市場拡大とともに規制緩和が図られてきた。

料金制度は、言うまでもなく、通信サービスの核心のひとつであり、その優劣が競争関係に大きな影響を及ぼしている。しかし、今回の制度改正は、それを総務省が間接的であれグリップできるようになるということであり、その点で携帯会社と総務省の関係性の大きな転換点と捉えることもできるだろう。

今後、総務省としては、これらを盛り込んだ省令改正を経たのち、2019年秋に改正電気通信事業法を施行する予定となっている。

安倍総理や菅官房長官による「携帯料金引き下げ」発言に端を発した一連の議論だが、その根底には携帯会社の高い営業利益率(20%前後)と顧客囲い込み(0.5%程度の低い解約率)に対する懸念があったように思う。

(出典:MCA)

 今回の制度改正によって、総務省としては解除料金を引き下げることで顧客の流動化を促し、楽天の参入などで携帯会社同士の通信料金の引き下げ競争によって市場を活性化。さらには端末についても携帯会社のサポートが制限されることで、競争原理が働きiPhone以外の端末が市場に広がっていくようなシナリオを描いているのかも知れない。

 しかし、携帯会社にとっては、これまで2年契約という「縛り(=収益の安定装置)」を前提に事業計画を組んできた。それがなくなるという不安定な状態になった時に、4割も料金を引き下げるような事業計画が成り立つのだろうかという疑問が沸く。むしろ、料金は高くなるのではないだろうか。2019年10月には楽天が参入することで、料金を下げざるを得なくなるという意見もあるが、どのくらいのインパクトをもたらすか。その辺は未知数でしかない。

 また、最大の懸念は世界中が5Gサービスの商用化へ動く中で、今回の制度の枠内で5G端末の運用が行われれば、間違いなく普及の大きな足かせになるということだ。

 むしろ、端末販売は携帯会社から端末ベンダー自身が主導権を握り、たとえばアップルが米国で導入している、iPhoneを毎年買い替えできる「iPhone Upgrade Program」のような新たな構造変化が生まれる可能性がある。

 携帯会社は、今回の制度改正によって一時的な影響を受けるかも知れない。しかし、携帯会社の周りには基地局の無線機ベンダー、電池やアンテナなどの部材会社、工事会社、端末ベンダーやショップ運営を担っている販売代理店など、巨大なサプライチェーンが存在しており、むしろそちらへのしわ寄せが懸念される。

 果たして、今回の制度改正は「誰にとって幸せだったのか」。改めて、問い直していくべき論点ではないだろうか。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて6月28日に公開された記事となります。
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