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NTTとNECによる業務資本提携で考える、O-RANを中心とした「新しい流れ」

NTT(持株)とNECは業務資本提携を締結すると発表した。O-RAN準拠の基地局設備の開発を進め、また、NTTの掲げる次世代ネットワーク構想「IOWN」(Innovative Optical and Wireless Network)の実現を目指すとしている。

両社の業務提携の中身は以下の通り。

資本業務提携の概要

<1>最先端技術の開発・活用により、世界最高レベルの性能と低電力化を兼ね備え、市場ニーズに合った品質と顧客目線での利便性を高めた小型光集積回路(DSP)およびそれを組み込んだ情報通信機器を開発し、グローバルに販売します。

<2>グローバルのオペレータや通信機器ベンダーと連携を図りながら、O-RAN Alliance仕様の普及促進を行いつつ、O-RAN準拠の国際競争力のある製品を開発・販売し、将来的にはNECの主導のもと、グローバルトップシェアをめざします。開発にあたっては、光・無線技術を活用した革新的なデバイスを基地局装置に適用することで、今までになかった超高速処理・超低遅延・超低消費電力を実現します。

<3>NTTが掲げるIOWN構想の実現に資する革新的技術・光/無線デバイスの開発を行い、その一環として海底ケーブルシステムの大容量・高機能・低コスト化の実現や、宇宙通信の大容量・低遅延・自動/自律化、インフラネットワークのセキュリティ確保に向けた技術の高度化等を実現します。

出典:NTT

このなかで、今回注目したいのが「O-RAN」だ。O-RANとは、「Open Radio Access Network」の略で、直訳するとオープンな無線アクセスネットワークの意味になる。

都市部など通信トラフィックの高い携帯基地局は、基地局側に無線の送受信装置のみを配置し、それらの基地局を制御し集約する収容局というC-RAN(Centralized Radio Access Network)が主流となっている。

この両者は、これまで1つの無線機ベンダーがセットで供給することが大前提だったが、O-RANではこの間に「モバイルフロントホール」の規格をベンダー間で共通化することで、異なるベンダー間の機器をつながるようにしようというものである。

こうしたオープン化の背景には、「ベンダーロックイン」と評されるほど、ベンダー主導となっている現在の状況を打破したいという通信キャリア共通の悩みがある。

O-RAN標準化には、世界の通信キャリアのほかに、エリクソンやノキアといったグローバル無線機ベンダーも参画を表明しているが、自らのビジエネモデルを毀損する可能性もあり、無線機ベンダーの中には、とりあえず名前だけというところもあるし、ファーウェイのように参加を見合わせているところもある。

一方、すでにニュースでも報じられている通り、世界の携帯基地局向け無線機ベンダー市場で、NECや富士通といった国産ベンダーは劣勢にある。しかし、このO-RANなどオープン化の流れは、グローバル無線機ベンダーが囲い込んでいる"今の秩序"を打ち破れる可能性があると言われているのだ。

では今回のNTTによるNECの資本参加をどう見るかであるが、当事者によるそれぞれの事情は別にしても、業界関係者へヒアリングをしていると、国策的な面も大きいのではと感じる。

少なくとも今は無理でも、6Gなどでいずれは国際的な主導権を握れるよう国産ベンダーを支援していきたい。米中が対立し世界が分断したように、国内でも国による国産ベンダー支援の圧力が通信キャリアや無線機ベンダー、そして関係機関へ働いているのではないか。

5G導入にあたり、技術や価格だけでない、こうした"新たな流れ"による意思決定は、今後さまざまな形で加速していくと予測される。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて7月3日に公開された記事となります。
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