IIJ主催イベント『IIJmio meeting #8』:

iOS端末とMVNOの相性、MVNOの将来像、周囲に勧める際のポイント等を解説

2015年7月、インターネットイニシアティブ(IIJ)が「IIJmio meeting #8」を大阪と東京で開催した。iOS端末とMVNOとの相性問題、MVNOの将来像、IIJmioの混雑状況の実態、MVNOを周囲に紹介する際のポイントなどが解説された。

イベントの詳細については別途掲載するが、まずはイベント参加者およびtwitterから寄せられた質問に登壇者が回答する質疑応答の模様をお届けしたい。

MVNOとiOSの関係に関する質疑応答
ネットワーク本部 ネットワークサービス部
大内 宗徳氏
ネットワークサービス全般の技術調査、機器動作検証、研究開発等に携わる。モバイルの端末挙動調査なども手掛ける。
――iOSにおけるKDDI網MVNOの動作について、SMSの有無で安定性に違いはあるか。
大内氏:
テストはSMS機能のないプリペイドSIMと、SMS機能がある音声SIMで実施している。そこでの違いはあまりなかったので、SMSの有無が接続安定に影響を与える可能性は大きくないのではないか。
――アップルがiOSのAPN構成プロファイルを「APN Payload」から「Cellular Payload」へ移行させようとしているが、プロファイルを作る「Apple Configurator」の最新版では「Cellular Payload」が作れないと思う。今後の対応に支障はないか。
堂前氏:
既存の構成プロファイルの書式が仕様書としてPDFで公開されており、それをもとにXMLを書いている。Apple Configuratorが使えないので、テキストエディタで頑張っている状態です(笑) 今回Cellular Payload版の構成プロファイルを実験的なベータ提供にとどめているのは、公式ツールで作れないものを我々が配布していいもいいのかという思いもある。
MVNOをまわりに勧める際の対応に関する質疑応答
サービス推進本部 サービス推進部
おがわ みき氏
普段はIIJmioとは関係のない業務を担当しているが、現在はIIJmio会員向けメルマガの執筆担当者も兼務。
――MVNOを周囲に勧めるにあたり、端末をどうするかという問題があります。どうするのがよいでしょうか。
おがわ氏:
iPhoneに関しては、中古であってもそれなりの値段になるので、新品のSIMフリー端末を購入してもらうしかないと思う。Androidであれば、手が出しやすいメーカーを選んでもらっている。
――キャリアからIIJの乗り換えを勧めた相手から「端末が故障した」という相談があった場合はどうすればよいでしょうか。
おがわ氏:
私が周囲にIIJmioを勧めてからまだ日が浅いので、具体的にそういった事態に遭遇したことはないが、iPhoneであればApple Storeに行ってもらうと思う。
堂前氏:
「IIJmioサプライサービス」で端末を購入いただければ、万が一の故障に備える「端末補償オプション」もあわせて提供しているので是非そちらでお願いします(笑)
――乗り換えを周囲に勧める中で、困ったと感じたことはありますか。
おがわ氏:
(IIJmioの企画や開発を手掛けていない第三者目線として)既存のプランを使っている方からすると、音声通話は無料通話ないしかけ放題があるのが当たり前で、完全従量制に対して敷居が高いと感じる方がいる。数百円分でもよいので、付いているとありがたい。
(※編集部注)
この回答に対して「村越氏に対する宿題ですね」とのツッコミが登壇者から寄せられた。IIJにも音声通話に関する要望は多く寄せられており、絶えず検討はされているようだ。
通信品質に関する質疑応答
ネットワーク本部 ネットワークサービス部
佐々木 太志氏
IIJmioのサービス企画・運用を手掛ける。IIJmio公式ツイッターの中の人としてもおなじみ。
――今後も積極的に拡販していくようだが、帯域増強は間に合うのか。
佐々木氏:
品質がよくない状態になっている現状は大変申し訳なく思っている。このような状況下で私が何を言っても説得力がないが、現状を深刻に捉えている。

品質向上は継続的に行っていくが、一方で社内調整が必要なことであり、どうしても歯切れの悪い回答になってしまうことはご了承いただきたい。

とはいえ設備産業なのでお客をとっていかないといけない。既存の利用者からすれば「顧客獲得をとめて設備増強だけする」ことで品質向上を期待されるのかもしれないが、顧客が増えないのに設備増強するということは営利企業としては取りにくい方策。顧客獲得と通信品質向上、その両輪とも回し、両立を目指していきたい。

プロダクト本部 プロダクト推進部
堂前 清隆氏
コンテナDCの開発からソーシャルメディア活動まで、インターネットに関係する事を幅広く手掛ける。IIJ公式技術blog「てくろぐ」の中の人としてもおなじみ。
――最近「通信の最適化」が話題になりますが、IIJmioでの導入状況および、導入していないのであれば今後の導入の可能性を教えてください。
堂前氏:
まず、個人的に「最適化」という言葉は好きではない。実際は「コンテンツの再圧縮」を意味していると思うが、現時点でIIJではコンテンツの再圧縮はしていない。

技術として、再圧縮には意義はある。ユーザーにとっては読み込みが早くなる、消費するデータ量が少なくて済むというメリットがあるし、我々にとってもキャリアとの接続帯域が少なくて済む利点がある。なので、今後先々にわたって絶対にやらないと断言はできないが、今は(何も検討してない)フラットの状態。

仮に導入するにしても、手続きが必要だと考えている。再圧縮とは、利用者のデータの中に手を突っ込むことであり、これは非常に重大なこと。コンプライアンス部門とも相談が必要だし、利用者にどう説明し、許可をいただくか、ということを検討する必要がある。少なくとも、いきなりドンと開始することはない。

――通信が逼迫している状態では、個人向けプランも法人向けプランも同じように影響を受けるのか。
堂前氏:
法人でも同様の傾向があるが、通信制御調整のかねあいもあるので、全く同じともいえない。
――IIJmioはランチタイムなどに混雑が発生しているが、この時、IIJがMVNEとなっているMVNOでも同様に通信が混雑するのか。
堂前氏:
BIC SIMのように販売は他社だが通信契約はIIJと行う場合、SIMの中身はIIJmioと同一なので、混雑状況もIIJmioと同様となる。

そうでない場合は、弊社とMVNO事業者とのあいだの契約によって状況は異なる。

IIJmioで使う帯域とは独立して帯域を確保しているケースでは、IIJmioの混雑状況の影響は受けない。一体的に運用している場合は影響を受ける。各MVNOがどういう契約になっているかは弊社からは公開しない。

――イベントでは多くの人が一カ所に集中するため通信も混雑すると思うが、そういった場合でもIIJmioの帯域が混んでいなければスムーズに通信できるのか。また、今年春に行われた某イベントで「痛SIM」を販売していたが、その販売状況はどうでしたか。
佐々木氏:
混雑した場所では、1つの基地局に通信が殺到してボトルネックが生じる。基地局が混みあう場合、我々のインフラの空き具合とは関係なく、通信は混雑してしまう。

これは、ドコモであってもIIJであっても(ドコモ回線を借りる他のMVNOであっても)一律同じ条件。

堂前氏:
販売状況は禁則事項です(笑)
IIJmioの今後に関する質疑応答
――IIJはFull-MVNOを目指すのか。目指すとしたら、その目的は。
佐々木氏:
まさに上海の「International MVNO Summit」で「Full-MVNOを目指す」ことを話してきており、我々はFull-MVNOを目指す。

何を目指すかは将来的な話で細かいところまでは固まっていないが、1つは海外パートナーとの協業があるのではないか。現状はドコモの「WORLD WING」契約に従うしかない。海外キャリアからみるとMVNOのSIMはドコモのSIMであり、だったら「WORLD WING」だよね、で話が終わってしまう。

日本のマーケットを中心に海外にも、というところで、いきなり海外子会社を作って海外キャリアから回線を借りてMVNO、という話ではない。

今回のプレゼンでは、具体的なものについては全く決まっていないなかで「Full-MVNO」を目指すという方向性を説明した段階。おそらく数年後になると思うが、最終的には「IIJだからこういうサービスができます」という具体的な話ができるようにしていきたい。

――MVNOではなく、第4のキャリアとして電波の取得を目指してみてはどうか。
佐々木氏:
今からでは、通信サービスに適した2GHz以下の電波は取得できないだろうし、可能性はゼロに極めて近い。 MNOを目指すのではなく、キャリアにできないことも含めて、MVNOとしてできることを考えていきたい。
――MVNOがこれだけ多くなってきたなかで、IIJmioの差別化要因はどこか。
佐々木氏:
日本でMVNOができることの大半は、既にどこかの会社がやってしまっていると思う。

サービス開始当初は技術が差別化要因になるが、そこが一段落すると売り方に重きが置かれるが、例えばポイント還元のようなものは我々のキャラではないと認識している。

一朝一夕にはできないが、やはり技術面や将来的な取り組みなどを差別化のポイントとしていきたい。

――店舗を広げたり、サポートを手厚くするのも差別化にならないか。
佐々木氏:
店舗を全国展開して通信サービスを提供するのはキャリアの役割。IIJがそれをやっても、キャリアに追いつくのは並大抵ではできないから劣化コピーになってしまうし、店舗運営のためのコストを吸収するためサービスも値上げしなければならない。結果、安くもないし、サポートもキャリアほど行き届いていない中途半端なものになっていまう。

安いサービスだけをだすつもりはないが、IIJmioを利用しはじめるきっかけとしての安さは重要なので、では満足いただけないのではないか。

例えばビックカメラのカウンターでは有償のサポートメニューがあるので、必要な場合は活用してほしい。有償というといやらしいように感じるかもしれないが、キャリアが手厚いサポートができるのも月々の利用料金の中にサポートコストが含まれているだけの話。我々は利用料金は安い代わりに、受益者負担ではないが、サポートを受ける方に負担してもらうスタンスである。

IIJmioサービスに関する質疑応答
――データ通信の海外ローミングサービスを提供される予定はありますか。
佐々木氏:
ドコモとの契約上、WORLD WINGでデータのローミングを提供することは可能だが、個人向けへの提供は今のところ考えていない。

IIJmioでは「高速データ通信3GBで月額900円」よりプラン提供しており、その料金で海外でも3GB使えると理解されてしまうおそれを排除できない。誤解して使ってしまい、利用者のもとに高額な請求がされてしまうことは避けたい。

例えば5000円を超えたら強制的に通信を遮断できれば(高額請求は防げるので)サービス提供の可能性もあるが、現段階ではそのようなリミッターを付けることは極めて困難。

音声については、IIJmioでも完全従量と説明しているので「通話をすればお金を払う」ことは理解していただいているので、ローミング機能を提供している。

ネットワーク本部 コンシューマサービス部
村越 義親氏
IIJmioサービスの企画・提案・設計・実装のほか「デジモノステーション SIM PERFECT BOOK」仕様策定など幅広く担当。
――海外で端末やSIMを紛失した場合、音声ローミング機能を停止できないか。
村越氏:
現状はそこまで手が回っていない状況。海外でも使えます、というレベルにようやく到達した段階なので、今後の課題として承る。
佐々木氏:
きっと村越がやるので、タスクとして積んでおきます(笑)
――他のプランで複数契約しているが、これらをまとめてファミリーシェアプランに移行できませんか。
佐々木氏:
まだ説明できる状況ではない。今月とか来月とかには、という世界でもないのが実情。

契約システムを変えるのに時間がかかっている。我々のシステムの柔軟性の問題かもしれないが、契約という重要な情報を扱うので改善を慎重に進めている。今しばらくお待ちいただきたい。

――ファミリーシェアプランは1契約で最大3枚までのSIMによるシェアだが、5枚とかさらに枚数を増やせるようになりますか。
佐々木氏:
これも多くのご要望をいただいている。

どこかのタイミングで何か回答できるといいが、積み残しの課題が多い中で順次対応している状態。

――ファミリーシェアプランで、各SIMに割り振るクーポン容量に上限を設定する機能が欲しい。家族で分け合う場合、子供の使いすぎを防ぎたい。
佐々木氏:
要望があることは認識しているが、クーポンというだけで「何それ?」という方もいらっしゃるので、(複雑になりすぎてしまう可能性があって)実装すべきかどうかは検討の最中である。

子供さんにはミニマムスタートプランで十分ですよ(笑)

――法人向けでの音声通話対応プランの提供予定はありますか。また、紛失した際にビックカメラやイオンのカウンターで再発行できると便利だと思いますが。
佐々木氏:
法人向けプランにおける音声通話サービスの提供について、いつという具体的な情報はない。法人に関しては担当が別にいるので、内部でディスカッションしたいと思う。

カウンターでの対応については、確かに対応できる機械がカウンターにあることはあるが、実際に法人顧客がそういったところに行くかと言えばそうでもないと思うので、どう実装するかは要検討課題としたい。

――混雑する時間帯とそうでない時間帯があるなら、混雑していない時間は借りる帯域を減らせばコストダウンになっていいと思いますが。
堂前氏:
接続帯域を時間帯ごとに変更することはできないので、そういった方法でのコストダウンは難しい。

空いている時間帯の需要をいかに取り込むかが重要だと思っている。特に法人は個人ユーザーと使い方が異なり、例えば本店とチェーン店を結ぶWANなどで需要を掘り起こして平準化していきたい。

――プリペイドプランにも音声通話機能を付けて欲しい
佐々木氏:
音声通話を提供するには、利用料をどう回収するかを考えないといけない。

データ通信については、プリペイドでお支払いただいた分のクーポンがなくなった時点で通信を切断すればいいので回収不能になることはない。

音声通話の場合はNTTドコモの設備を使って提供しているため、前払い分を使い切った時点で通話を中止することができないので難しい。

――口座振替での支払にも対応して欲しい。あと、デビットカードは使えるものとそうでないものがあるが、どのカードが使えるのか事前に知りたい。
堂前氏:
クレジットカード以外の支払方法への対応は積み残しの検討課題の1つと認識している。

デビットカードはVISAデビットやJCBデビット、さらに「au wallet」など多くの種類が出てきている。まぁ「au wallet」でIIJmioの料金を払うというのは不思議な感じもするが(笑)、クレジットカード番号をみただけでは支払可能なのかどうかは判別できない。

また、以前は支払えていたが急に対応が変わって不可となる場合もあるので、弊社からはお答えできない。

――クーポンのない状態では200kbpsでの通信となるが、この速度を上げる予定はないか。また、無制限プランの予定はないか。
堂前氏:
200kbpsの増速は直近の予定はない。ここを上げるとインフラに対するインパクトが非常に大きい。

現状の速度では動画を見ることは難しいためある程度バランスが取れているが、例えば500kbpsにするとそれなりに動画まで見ることができてしまう。例えば動画を再生し続けられると通信容量が跳ね上がってしまう。そこを危惧している。

無制限については「速度」と「通信容量」の2つがあるが、(速度は数Mbpsに制限するが容量は使い放題、といった)両方を掛け合わせるモデルはきれいなかたちで作れればありだと思う。

ただし両方とも無制限なプランは、利用者で限られた設備を奪い合っているだけではないか。MVNOがコントロールすることを放棄したプランは、考え方としてありだとは思うがIIJとしては当面やらないと思う。

――IIJmioはIPv6に対応していますか。
堂前氏:
対応している。Androidスマホやルータでは(対応端末であれば)使えるが、iOS端末では利用できない。これは、iOSの設定ファイルの中で、ドコモもMVNOも含めて「IPv6は使えない」よう設定されてしまっているため。その部分の設定はこちらでは変更できない。
――ビックカメラやイオンなどのカウンターでSIMサイズの変更手続きもできるようになりませんか。
村越氏:
以前よりご要望をいただいています。ただし、カウンター業務に関しては、店舗を運営する相手先との調整が必要となりますので、我々の一存では決められない事項でもあります。

IIJ主催イベント『IIJmio meeting』取材記事