NFVがもたらす通信ネットワーク分野へのインパクト(1):

オープン化へ踏み出すベンダ市場

NFV(Network Function Virtualization)というワードが昨年来、通信ネットワーク業界で注目を集めている。これまで特注の高価なハードウェアによって構成されてきた通信キャリアのネットワークを、サーバーやストレージ、スイッチなどの汎用機器と仮想化ソフトで再構築し直すことによって、大幅なコスト削減や柔軟なネットワーク構成、迅速なサービス立ち上がりを実現するのがNFVのキモとなる。

そこで今回のスナップショットでは、NFVがモバイルを含めた通信業界に与える衝撃や今後の普及について今週と来週の2回に分けて取り上げていきたい。

NFVによって、通信業界は大きなインパクトを受けることとなる。通信キャリアはネットワークインフラの増強に膨大なコストをかけている。専用アプライアンスは高価であり、機器のライフサイクルも短くなってきている。また、新たなネットワークサービスの提供にも時間がかかり、専用機の集合体であるネットワークの保守運用には専門知識を持った人材が必要となるなど、収益を圧迫する要因となっている。

NFVはこれらの課題を解決する手段として注目されている。その理由として、下記の点が挙げられる。

・汎用ハードを用いることで機器コストが削減できる
・ソフトで機能を実現するため新たなサービスの提供も迅速に行うことができる
・仮想アプライアンスをクラウド化することでネットワークリソースの割り当ても柔軟に実施でき、ネットワーク設定の自動化も実現できる

そして、NFVの普及は、通信キャリアに機器を提供しているベンダーの構図に大きな影響を及ぼすこととなる。現在、コアネットワーク市場は通信機器ベンダーの高価な製品群や、独占的な専用ハードウェアなどで構築されており、数社の通信機器ベンダーが世界市場を占有する構造となっている。しかし、NFV化により、通信専用の高価なアプライアンスではなく、汎用サーバが使われることになれば、HPやIBMなどのコンピューター系ベンダーにも門戸が開かれる。また、ハードとソフトが分離されることによって通信サービス機能を実現するソフトベンダーにも市場参入のチャンスが訪れるのだ。

こうした市場構造の変化に、通信機器ベンダーはEPCを仮想化する製品やソリューションを投入し、NFV化の波へ乗り遅れまいと対応を進めている。

通信機器市場におけるプレイヤー俯瞰図
(出典:MCA「NFVの動向と関連市場における主要プレイヤーの戦略に関する調査 2014」)


現状、NFV市場を巡っては、コアネットワーク、伝送市場を中心に動きがみられる。コアネットワーク市場をEPC(Evolved Packet Coreの略。LTEをはじめ2Gや3Gなどのモバイルアクセス網を集約するコアネットワーク)やサーバー、仮想化(VM)系の3つに区分し、通信機器ベンダー各社の動きを整理すると、コアネットワークと伝送市場を統合的に支配したいEricssonやHuawei Technologies、NECに対し、アライアンス戦略によってコアネットワーク市場に注力するNSNに分類される。

 一方、OSS/BSSなどのサーバー系に強みを持つ米HPがEPC系への進出を目指せば、伝送市場では米Cisco SystemsがvEPCやvFWなどへ、米Juniper NetworksはNSNとの協業によってシェア拡大を目指している。

 NFVによってもたらされる通信ネットワークのオープン化は、機器やサービス、ソフトを提供するベンダー間の新たな競争のはじまりでもある。

本記事は、株式会社インプレス「ケータイWatch」内で弊社が執筆を担当している連載「DATAで見るケータイ業界」にて8月1日に公開された記事となります。
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